導入事例

耐性菌感染症診療に対する大学病院での取り組み

日本大学医学部附属板橋病院様

  • ライサスS4
2023年08月23日

院内感染対策や薬剤耐性菌の感染制御は感染症診療において極めて重要な業務です。

この度は、日本大学医学部附属板橋病院 感染予防対策室ご所属の 日本大学医学部 小児科学系小児科学分野 西村 光司先生、薬剤部 岩渕 聡先生(感染制御認定薬剤師)、臨床検査部 谷道 由美子先生(感染制御認定臨床微生物検査技師)に、院内での感染症診療や耐性菌アウトブレイクの予防策を中心にお話を伺いました。

小児科学系小児科学分野
助教 西村 光司 先生
薬剤部
岩渕 聡 先生
臨床検査部
谷道 由美子 先生

院内の感染症診療体制:アウトブレイクへの発生予防、抗菌薬の適正使用への取り組み

―― 日本大学医学部附属板橋病院様における感染症診療体制やアウトブレイク発生予防のために日々行っている取り組みについて教えてください。

西村先生(小児科学系小児科学分野):

多剤耐性菌によるアウトブレイク事案が起きないように、薬剤耐性菌を生まないための抗菌薬の適正使用を行っております。

また、アウトブレイク発生の予防策として、現場での手指衛生とそのモニタリングをしています。手指衛生などの感染対策の教育活動については病院全職員や学生に加え、病院に出入りされる方にも実施しています。

岩渕先生(薬剤部):

抗菌薬に関しては適正使用の普及活動を行っています。例えば、患者さんに適切に服薬してもらうことへの理解が得られるよう、処方箋の流れに沿って説明を行います。その中で抗菌薬を期間内に飲み切る必要性についても説明をしています。一方で、風邪で抗菌薬が処方されないことについて、処方されることが当然だった時代の記憶を持つ方では疑問や不満を感じることもあるため、不必要な薬の処方によるデメリットの話もしています。

谷道先生(臨床検査部):

臨床検査部の立場では、アウトブレイク発生予防というよりも、発生時にいち早く耐性菌を見つけることが重要です。

現在は感染予防対策室に臨床検査技師が1名在籍しているので、検査部内の情報集約ができつつありますが、情報の遅れは、非効率的なベッドコントロールや、感染対策の遅れに繋がるため、全員が同じ認識を持つことを心がけています。

耐性菌だけではなく、特定の病棟でのトキシン産生C. difficileあるいは、RSウイルスやノロウイルス感染症患者などについての増加傾向の気付きも大事なことだと思います。気付く人と気付かない人では後の結果が変わってくるため、各病棟での感染症の状況、薬剤感受性パターンとの関連性などを見ていくのが検査技師の立場として一番重要だと感じています。

―― 臨床医の先生のうち感染症の専門ではない方々に対しては、抗菌薬の適正使用についてどのようにアプローチされていますか?

西村先生(小児科学系小児科学分野):

抗菌薬適正使用支援チーム(以下、AST)が院内にあり、抗菌薬の適正使用のために、個々の診療科にコメントを残しています。感染症専門の医師は少ないので、現場の先生を一人で悩ませてしまうのではなく、ASTとの連携で必要な時に、必要な治療ができるように努めていきたいと思います。

岩渕先生(薬剤部):

ASTの話をすると、診療科内で感染症のことを牽引してくれる医師がいるところは、何の問題もありません。しかし、他の診療科においては、自主的に取り組む流れはまだ大きくないように感じます。

自然に抗菌薬が適正に使用されるような環境になって、耐性菌を生まない環境を作るには、情報や経験を共有できる仲間を増やしていくことが一番近道だと思っています。

ライサスシリーズの特長や導入のメリット

―― 日々の感染症検査において、ライサスシリーズの機器(エニー、S4)を導入した後はどのような効果がありましたか?

谷道先生(臨床検査部):

ライサス導入後は、一般細菌、栄養要求性の厳しい菌や酵母様真菌、嫌気性菌を含むほとんどの菌群の薬剤感受性検査が一元化・自動化できるようになりました。ダブルチェックも機器と自分で可能となり、導入前は細菌検査の結果報告が検査部内の中間報告の後、3~4時間電子カルテ上へ記載できないこともありましたが、早くできるようになりました。省力化が図れたので、その分を他の教育や、トレーニングなどに回せるようになったところは大きなメリットです。

また、ライサスはCLSIの方法や条件に従った手法のため、信頼できる薬剤感受性結果が得られることも安心できる要素です。

―― ライサスが貴院で抗菌薬治療のデ・エスカレーションに貢献できている事例はありますか?

岩渕先生(薬剤部):

例えば、血液培養陽性検体のグラム染色でブドウ球菌が見え、MRSAが出ている可能性がある場合、大体選択薬は決まってきます。その後、薬剤感受性結果からMSSAと同定された場合は、主治医の先生方の判断でデ・エスカレーションされることが多いです。それはライサスの結果に基づいたアクションであり、比較的頻繁に起こっています。しっかりとライサスが貢献できていると理解しています。

―― 貴院では以前の機器のライサスエニーからご使用いただいていますが、ライサスS4にされて変化はありましたか。

谷道先生(臨床検査部):

ライサスS4の変化は、機器が小さくなったことに加え、タイムコースが見られることでしょうか。再検の場合等に、判定終了時間以前にタイムコースである程度結果の目処が立てられるというのは助かります。前回と同じ値になりそうなのか、あるいは最初の立ち上がりが普段と異なった場合には何かがコンタミネーションしていたのではないかという、目安としてもタイムコースが本当に有用です。また、MRSAと MSSAのどちらなのか早く知りたい場合などに、薬剤感受性の最終判定結果前でも、タイムコースの確認から推定もできることも良い点です。

岩渕先生(薬剤部):

導入の効果の話で言うと、カスタムプレートでMICを選択できるということは、患者さんの利益となる可能性があります。

特にアミノグリコシド系の抗菌薬、例えばアミカシンのMICが8と4では抗菌薬の投与量は約5 mg/kg変わってくる場合があります。それだけで、アミカシンのトラフ値を低くすることできる可能性があります。トラフ値を低くしながら目標のピーク値/MIC>8-10を達成できれば治療効果を担保しながら腎機能障害のリスクを軽減することに繋がります。臨床に反映できるという面で、カスタムプレートで低濃度のMICも測定できるような幅があることは非常に魅力的だと思います。

薬剤師の目線で見ると、MICをそういったところで設定できるのは良い点だと思います。

感染症診療における課題や今後の展望

―― 感染症診療における課題について教えてください。

西村先生(小児科学系小児科学分野):

大学の感染症の講義の最初には微生物の名前をたくさん教わりますが、そこで苦手意識を持つ医学生が多いのではないかということを最近よく思います。

そこで、私が年に2、3コマほど感染症の講義を担当する際には、医師国家試験には出ない範囲ですが、一般的な座学以外にも耐性菌の作用機序や、安易に抗菌薬を使用しないなどの基礎概念を入れるようにしています。今後も、現状の感染症診療で起きていることについて少しでも伝えていきたいです。

岩渕先生(薬剤部):

薬学も微生物を一応学びますが、そこでまず壁がありますし、さらに同じような名前の薬の微妙に違う作用機序を覚えて、複雑でよく分からなくなるので学生時代でたいてい抗菌薬を嫌いになります。そのため、結局、薬と微生物が繋がらず、感染症に対しての理由をもって薬を選択するという思考がなかなか育ちません。

谷道先生(臨床検査部):

臨床検査の学生も、微生物を好きな人と嫌いな人で二極化しています。
やはり学生のうちに、「微生物学」とかいう名前ではなく、「感染症学」のような形で、微生物を覚えていかないと、膨大な暗記量についていけず嫌いになり、「捨て教科」にしてしまう人が増えるように思います。

―― 最後に、感染症診療における今後の展望についてお聞かせください。

岩渕先生(薬剤部):

日常から抗菌薬の適正使用、薬剤感受性まで確認し、理解できることが当たり前という文化を薬剤師が持つことができれば良いと思っています。

たとえば先ほど触れたアミノグリコシド系の話に関連すると、将来的には薬剤感受性検査のMICを正しく読める人が増えたら良いと思います。

西村先生(小児科学系小児科学分野):

確かにMICまで読めるようになると面白いと思います。

谷道先生(臨床検査部):

細菌検査には、感染症診断のための検査(起炎菌を特定するための検査)と、感染制御目的の検査(耐性菌の検出)の2通り存在しています。

結果報告時には「起炎菌ではないが、耐性菌の可能性があったから薬剤感受性検査を行った」などのコメントを付けて返しています。コメントまで読んでもらい、検査室側の意図を解釈してもらえるようになるためには、日頃から医師とのコミュニケーションが大切だと考えています。電子カルテ上の文字だけでは、こちらの主張が伝わらないことがありますが、電話で主治医と直接会話をすると、理解してもらえることも多く、先生との距離も縮まります。若手の技師には、些細なことでも物怖じせずに医師と対話できるようになってもらいたいです。

西村先生(小児科学系小児科学分野):

本当は診療科に1人は詳しい人がいて、その人を窓口にして、臨床上、どのような抗菌薬が必要か判断してもらうということが良いと考えています。

今後の方向性としては、「仲間」を増やしたいです。

コロナ禍になり、感染予防対策室に薬剤師と細菌担当の検査技師が入りコミュニケーションがとりやすくなり、私としては感染予防対策室を活用しやすくなり大変助かりました。コロナ禍が終わっても、細菌検査のことや、薬剤のことなどを相談する窓口としてコロナ以外の感染に寄与できるチームは、そのまま残してもらいたいという希望があります。
医師に関しては、本当に感染症診療に対し熱意のある方を見つけて、科もまたがってタッグを組めると良いと思います。

今後も学生指導を行っていくとともに、医師だけでなく、医療に携わる方々でチームを組み、診療を行っていきたいです。



お客様プロフィール

日本大学医学部附属板橋病院

所在地東京都板橋区大谷口上町30-1
設立1935年
病床数990床
診療科目総合科 呼吸器内科 血液・腫瘍内科 リウマチ・膠原病内科 循環器内科
腎臓・高血圧・内分泌内科 消化器・肝臓内科 糖尿病・代謝内科 脳神経内科 心療内科
精神神経科 小児科・新生児科 皮膚科 乳腺内分泌外科 心臓血管外科 消化器外科
呼吸器外科 小児外科 脳神経外科 整形外科 産科 婦人科 泌尿器科 形成外科
耳鼻咽喉・頭頸部外科 眼科 歯科口腔外科 救命救急センター 放射線診断科
放射線治療科(放射線治療センター) 睡眠センター アレルギーセンター
臨床検査医学科 麻酔科・ペインクリニック科 痛みセンター リハビリテーション科
病理診断科・病理部 看護外来 禁煙外来
URLhttps://www.itabashi.med.nihon-u.ac.jp/

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