導入事例
地域の中核病院におけるβ-D-グルカン検査の果たす役割
前橋赤十字病院様
日和見感染症のひとつである深在性真菌症は近年の高齢化や高度医療の普及に伴い、癌や骨髄・臓器移植に伴う処置、HIV感染者などの感染防御能の低下した患者さんを中心に増加傾向にあります。
このたび、本感染症診療におけるβ-D-グルカン検査の果たす役割について、地域の中核病院として前橋赤十字病院様の感染症内科 林 俊誠先生、臨床検査技師の吉田 勝一先生へお話を伺いました。本ページではお話の中からトピックスをご紹介します。インタビュー全文は記事最後からPDFにてダウンロードすることができます。
院内での深在性真菌症の診療体制、検査体制
林先生(感染症内科):
診療体制は主に三つに分かれています。一つ目は真菌を吸入して感染してしまう患者さんを診る呼吸器内科、二つ目は免疫抑制患者さんを診る血液内科そしてリウマチ・腎臓内科、三つ目は広域抗菌薬を使用した結果として、あるいは重症感染症の結果として深在性真菌症を発症する患者さんを診る集中治療科・救急科が主体となって診療を行っています。私、感染症内科としては、それらの科の診療補助を担っています。HIV感染症など免疫不全を伴う感染症に合併して深在性真菌症患者の診療も行っております。
吉田先生(微生物検査室):
検査体制としては、血液培養と一般細菌培養の各種検体は24時間・365日検査ができるように体制を整えています。β‐D-グルカンの検査は月〜土曜日まで検査できる体制を整えています。血液培養については、夜間や休日に真菌が陽性になっても主治医に連絡がいくようになっています。
β‐D-グルカン検査については、微生物検査室で行っております。限られた人数で検査しているので、β‐D-グルカン検査は午前10時半と15時半にまとめて検査する体制です。ただし、急ぎの検体については随時、1時間以内に結果を出せます。現状約200件/月と、院内化により増加傾向にあり、先生方が気軽に依頼できる検査になっています。
林先生(感染症内科):
当日に結果が出るなら、一般の血液検査と一緒にオーダーする医師が多く、導入時から倍増している印象があります。
深在性真菌症の院内検査指標
林先生(感染症内科):
基準はなく、数値を目安として捉えています。抗菌薬適正使用支援チームが抗菌薬を処方している情報を収集している中で、深在性真菌症を疑う病歴、例えばかなりゆっくりとした経過で悪くなっていくような感染症であったり、もともと深在性真菌症の既往がある患者さんや、CT画像検査で肺の空洞影があったりするなど、深在性真菌症の疑いのある病歴があれば通常の培養検査に加えてβ‐D-グルカンの検査や真菌の抗原検査、場合によってはPCR検査等を感染症内科から主治医の先生にご提案しています。
私共の提案をきっかけに診療が進んでいく、提案をより具体化して診療が進んでいく、という形です。
吉田先生(微生物検査室):
β‐D-グルカンは血液で簡単に検査ができますが、検査結果が高値であれば培養などの検査も一緒に依頼してもらえると、真菌も含めた培養検査などに対応できます。
診療場面でのβ‐D-グルカン検査による奏効事例
林先生(感染症内科):
事例1.
近隣の病院に肺炎ということで受診した患者さんが、感染による肺炎でなく特発性の間質性肺炎、すなわち自己免疫性の肺炎で紹介されました。しかし、CT画像を見てニューモシスチス肺炎(PCP)なのではないかとの疑いを持ちました。PCPについては保険適応になっている検査が少なく、様々な染色検査でも診断が難しいですが、幸いにもβ‐D-グルカンが院内で検査できて極めて高値だとわかりました。間質性肺炎であれば高用量・長期間のステロイド治療を行うのですが、一方でPCPではそれを中程度・短期間にとどめて抗微生物薬をしっかり投与するのが標準治療です。方向性の違う治療をせずに済んだ、というβ‐D-グルカンの検査の有用性を実感した症例でした。適切な診断ができたことにより、真逆の治療をせずに患者さんが早期に完治した事例になります。
この症例は裏側にHIV感染症が隠れていました。間質性肺炎であればかなり高用量のステロイドを投与して免疫を抑制しなければならないのですが、PCPでステロイドをもし使うとしてもそれほど高用量ではなく、できる限り免疫抑制は最小限にしたいとの違いがあるので、β‐D-グルカンの値によってそれを適切に判断できました。
事例2.
長期入院の患者さんが発熱をして、血液培養検査と同時にβ‐D-グルカン検査が行われました。β‐D-グルカンの検査結果は当日判明し極めて高値、何かの深在性真菌症が疑われて抗真菌薬が経験的治療として始まりました。翌日、血液培養からカンジダが検出されて、カンジダ血症の診断がつきました。β‐D-グルカンが院内で行えたことで血液培養よりも早く結果が得られて、適切な治療が早くおこなわれた奏効事例です。
吉田先生(微生物検査室):
真菌が生えてくるには2-3日かかり、長くて4-5日かかる場合もあります。β‐D-グルカンが当日に結果が出るのは有用性が高いです。
β‐D-グルカン検査の院内検査への移行による治療の早期化、コスト削減
林先生(感染症内科):
院内検査への移行は、抗真菌薬のコスト削減が最初の目的でした。例えば深在性真菌症を疑った患者さんに取り敢えず抗真菌薬が開始され、培養が陰性で、かつ外注したβ‐D-グルカンが陰性だとわかる3日後まで抗菌薬が投与されていました。必要性の有無に関わらず抗真菌薬が投与されていたので、病院には大きな損失です。3日間で6万円位の抗真菌薬の使用になっていたので、導入コストを考慮しても1症例あたり6万円ずつ損失が減っていけば試薬や検査機器代金の採算が取れると判断しました。実際に院内検査を開始すると、「取り敢えず」という根拠の乏しい投与は減り、コスト削減に繋がっていることも確認できています。
β‐D-グルカン検査の院内検査化プロセス
林先生(感染症内科):
私以外の診療医師がβ‐D-グルカン検査を院内で行いたいという要望をもってくれるか。検査手技が難度高くなく検査室で実施してくれるか。病院長が必要性を認めて初期コストを容認してくれるか。三つのハードルに対して理解してもらえるように進めてきました。
全医師にアンケートを取って、現在の検査体制への満足度、β‐D-グルカン検査の有用性を調査しました。また、さまざまな検査機器を見て、院内での使い勝手や精度を十分に検討し、最終的には経営の視点でESアナライザー導入に伴うコスト削減のメリットを病院長と幹部にプレゼンし承認を得ました。
今後の深在性真菌症診療の方向性
林先生(感染症内科):
深在性真菌症のリスクが高い方が増加するにつれ、抗真菌薬の使用の必要性も増加すると予測します。しかしながら、適切な検査に基づいた適切な抗真菌薬の使用は一般細菌の抗菌薬適正使用と全く同じなので、深在性真菌症の診療においては、如何に適切な検査を迅速かつ正確に行えるかが大事になってきて、患者さんの高齢化や医療の高度化に伴って、さらに要求が高まってくると思います。例えば、新型コロナウイルス感染症で肺炎になった患者さんにおいては、それが治った後にアスペルギルス肺炎になり易いという話も出始めているので、新たな感染症が発生すれば、そこに自然と深在性真菌症のリスクがついてくるというのも今後の話題になると思います。
国の方針は、できるだけ病院に留まる高齢の患者さんを少なくしたい構想があるようで、在宅でご高齢の方が最期まで過ごされる時代になると思います。そうした場合、外来診療で患者さんが待っている間に検査結果がでる必要性が求められると思います。入院ではなく通院で全ての検査が把握できるようにする必要が出てきます。深在性真菌症を疑う在宅の患者さんなら、外来診療にきて、院内でβ‐D-グルカンの検査が可能であれば適切な治療につながるでしょう。院外への外注検査を利用していては、外来のその日にはなかなか診断・治療開始ができません。患者さんが在宅に移行するほど、深在性真菌症に関わる院内での検査の必要性が高まると思います。
吉田先生(微生物検査室):
昨今の状況から深在性真菌症の患者さんは増えていくと思いますし、新型コロナウイルス感染症の状況もあり、リスク増もあり得ます。その時に、検査側としては如何に迅速に対応できて、診断に結び付く有効なツールをどのように組み合わせていくか、臨床側の先生が診断するのに有用である検査結果を出せるようにしたいです。また、新しい技術の導入や改良を行い抗菌薬適正使用につながるように、コスト面も見据え検査体制を整えていきたいと考えています。
お客様プロフィール
前橋赤十字病院
所在地 | 群馬県前橋市朝倉町389番地1 |
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設立 | 1913年3月23日 |
病床数 | 555床(一般病床527床、第二種感染症病床6床、精神病床22床) |
診療科目 | 内科(総合内科) リウマチ・腎臓内科 血液内科 糖尿病・内分泌内科 感染症内科 精神科 神経内科 脳神経外科 呼吸器内科 呼吸器外科 消化器内科 外科 乳腺・内分泌外科 心臓血管内科 心臓血管外科 小児科 産婦人科 整形外科 形成・美容外科 皮膚科 泌尿器科 眼科 耳鼻咽喉科 放射線診断科 放射線治療科 麻酔科 リハビリテーション科 歯科口腔外科 救急科 病理診断科 臨床検査科 |
URL | https://www.maebashi.jrc.or.jp/ |